Rain shadow─偽りのレヴェル─




「なあ、───…爽雨。」




初めて、俺は医者の息子に生まれて良かったと思った。


昔から名前を汚すことだけはしてくれるなと言われ、迷惑だけはかけるなと言われつづけ。

ろくな愛情なんか受けてこなかったけど。


こうして奇跡的にも親友の一命を取り留めることができている今。


父親に頭を下げたのは俺で、それを叶えてくれるのならこの病院をいずれ継ぐと約束していた。



「ここに…いつか深雨を連れてきてもいい?」



酸素マスクを取り付けた親友からの返事はない。


あいつはお前が死んだと思ってる。

だから男として朱雀に来てまで、お前になってまで、なにかを成し遂げようとしていて。



「…予想外すぎんだよ。まさか深雨が爽雨になって朱雀に来るなんて」



この病院に運ばれて眠りつづける爽雨を目にしたとき、母親は気を失って父親も話ができる状態ではなく。

双子の妹であるあいつは、ただ泣きじゃくっていた。


それが俺が初めて見た、爽雨の家族だった。



「…お前のところの家族もいろいろ大変だろうだから、まだぜんぶ教えれてない」



母親は精神が崩壊し、父親は出ていったと。

妹も冷静に口を聞ける状態ではなく、落ち着いたころに話し合うと決めた事故当初。



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