Rain shadow─偽りのレヴェル─




それまで爽雨の身元はこの病院預りとなって、たまたま重なった偶然が逆に今の奇跡を生んでくれた。


そのときの時点で心配停止、誰もが死んだとばかり思っていたが。


10階のビルから飛び降りたとき、幸いにもコンクリートではなく傍に停まっていたトラックの荷台に爽雨は落ちた。

俺はそんなわずかな希望を信じたくて、やれるところまで蘇生をお願いしたのだ。



「……お前も本当は死にたくなんかなかったんだろ、爽雨」



だから動いたんだ。

止まっていたはずの心臓が、動いたんだ。



「死にたかったんじゃなく……翠加に会いに行きたかったんだよな、」



まだお前に話してないことがたくさんある。話したいことだってある。

だから目を覚ましてくれ、お願いだ。



「このままずっと植物状態なんか…やめろよ…、」



俺の震える声を笑ってくる音だってない。

そんなものが余計に寂しさを生んで、現実を生んで、けれど爽雨は確かにここに生きているから。



「だからこれだけは言っとく。…お前の妹、やっぱすげぇ可愛かったわ」



まっすぐで、だと思ったら泣き虫で、たまにカチッとスイッチが入るとRain shadowの中で誰よりも勇敢になって。

まるでそれは一国を背負って戦う、鎧をまとった騎士に見えるときがある。



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