Rain shadow─偽りのレヴェル─
ほんと最悪だろ。
おまえの妹は勝手になにしてくれてんのって感じだ。
桃太郎にでもなった気分なのか知らねぇけど。
「でも、たぶん俺たちは負けない。もう…負けない気がするんだよ」
本当はそこに、お前がいたらもっと翠加は喜んでるだろうけど。
俺じゃない。
あいつは確かに爽雨のことが好きだったんだ。
俺には、たったひとつの確信がある。
「…また会いにくるよ、爽雨」
それでもまだ俺たちが好きな雨は降ってくれない。
ずっとずっと暗闇のなかに降りつづけていた。
「…また問題を起こしてないだろうな」
「……起こしてません」
院内ですれ違った男は、紛れもなく実の父親だった。
お父さんとキャッチボールなんかしたことがない。
博物館だって遊園地だってない。
「───綾都、」
そして本当の名前すら呼ばれない。
俺があいつに俺といるときは深雨でいろと言った理由は、どこか似ている自分に重ねたからだった。
下手したら本当の自分はいつの間にか消えていくんじゃないかって恐怖を誰よりも知っているから。
「私はお前がこの病院を継ぐと言ったから、それを叶えてもらうためだけに水本 爽雨を救ったに過ぎん」
「……わかってますよ」