Rain shadow─偽りのレヴェル─
久遠という名を汚さないため。
そんなちっぽけな理由だけで、幼少期から俺の行動すべては制限されつづけてきた。
だから俺が不良高校に通うと決めたのは、そんな両親に抗いたい反抗でもあった。
と同時に、親に気にされたい子供心もあって。
だけど、この男には呆気なくも無意味に散りばめられたわけなのだが。
「それからお前の名前のこと、誰にも話してないだろうな」
「…話してません」
「ならいい。それだけだ」
自分の息子があんな不良高校に通っている。
それが世間に渡りでもしたら自分の立場にすら泥を塗るとでも思っているらしい、この父親は。
母親だって似たようなものだ。
俺に見せる愛情は見せかけだけのもの。
金にしか目がなく、人の命すら金だと思っているような女だ。
だから俺が久遠 綾都として生きることで、そんな両親の子供だと思われない解放感もあった。
「…だから俺の本当の名前を知ってんのは、もうお前だけなんだよ」
お前らだけには本当のことを話した。
それは、お前らにならいいと思ったから。
翠加は救うことができなかった。
だからお前が死んだら、久遠 綾羽だって死ぬんだ。
「…爽雨、」
窓から覗いた雨空を、今日も見上げた。