Rain shadow─偽りのレヴェル─
『…爽雨さん……、』
暗闇のなか、表情は見えなかった。
けれど姉さんの姿を目にすると、彼はガクンッと崩れ落ちるように膝を落とす。
『……綾都、いつから…この状態だったんだ、』
『…俺たちが来たときには、もう…』
着ていた制服のブレザーを脱いだ爽雨さんは姉さんの身体にそっと被せて、頬に広がる乱れた髪を優しくどかした。
そんな震える動きに涙があふれて、おれはすぐ彼の腕の中へと眠る姉を移してあげる。
誰もがその光景を見つめることしかできなかった。
みんな、知っていた。
爽雨さんが姉さんのことを好きだってこと。
だけど気持ちを伝えられなくてもどかしくて、爽雨さんはそれでも一途に不器用に姉さんを想いつづけていて。
『……こんなに……細かったんだな、おまえ、』
まだ微かに残る最後のぬくもりを確かめるように、すくうように抱き寄せた。
そこまで大きくは変わらない身長差。
けれど姉はそれさえ爽雨さんの良いところだと言うように、おれに嬉しそうに話してくれていた。
『…馬鹿みたいだ、……初めて…お前を、抱きしめれたよ、』
やっと、抱きしめれたよ───…。
『…お前の髪が俺はすきだよ、お前の目も、鼻も口も、笑った顔も声も…、
放っておけない元気な性格だって……俺は、ぜんぶ好きだ、』