Rain shadow─偽りのレヴェル─




ずっと言えなかった気持ち。
彼がずっとずっと抱いていた想い。

やっと伝えられた言葉。

雨のなか、ひとつひとつおれたちに聞こえてくる。


こんなにも悲しい告白がこの世にあるのかと、おれは誰を責めればいいのか、もう分からなかった。



『…なんで、なんでこんな簡単なことなのに……、俺はできなかったんだよ…、』



そんなことないよ爽雨くんっ。
私、すっごくうれしい───!


姉さんのあたたかい声は、記憶のなかでこだまするように聞こえてくる。

けれど彼には聞こえていないんだろう。



『すいか、…翠加、遅くなってごめん……翠加、』



もう返事すら返ってこない女の子へ、爽雨さんは何度も何度も雨のなか繰り返した。




『…おまえがすきだ。────……誰よりも…心から愛してるよ、…翠加、』




消えそうな声、優しい顔をしてぎこちなく、慣れない動きで、愛した女の子へ唇を合わせる爽雨さんは。


それすら、ふたりにとって初めてのもので。

ほんとうなら幸せで幸せで、幸せで仕方のない行為のはずなのに。



『───………、』



もう、誰もが言葉にもならないもので。


だからおれは、気を失うくらいに泣いた。


倉庫の冷たいコンクリートにひれ伏すように、おれは声をあげて子供みたいに泣いた───。



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