Rain shadow─偽りのレヴェル─




もし今日の具が昆布じゃなくて明太子だったとしたら、おれは「明太子がいちばん好きです」と答えていた。

それくらいおれにとってこの人は特別な存在だから。



「僕が作るおにぎりって塩が利いてないってよく言われてたんだけど……どう?」


「おいしいです」



それを誰に言われていたんだろう。

よく似た存在がひとり脳内に浮かんで、つい似合わない笑みを浮かべてしまった。



「もー。瀧はたぶん、なに与えてもそう言うんだろうなぁ」


「はい」


「……」



あなたが作ったものなら、どんなものだとしても美味しいから。

本当はそこまで言えたらいいのに、そんな高度なテクニックなんか持ち合わせていないのがおれだ。



「なら明日からも瀧専用におにぎり作ろうか?なーんて、」


「え、お願いします、」


「……え、ほんとに?明太子はちょっと高いから…ツナマヨとかが多いかもだけど、」


「おれ、ツナマヨが2番目に好きなので」



おれは彼女を見ていると想像してしまうときがある。

映画やドラマは昔からあまり見れずに育ったが、そこには必ず男女が愛を伝えあうシーンがあって。



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