Rain shadow─偽りのレヴェル─
「ず、ずるすぎる…、」
そんなことされると逆に調子が狂ってしまって、どう見つめ返したらいいのか分からなくなって。
もうなにも考えられなくなって、身体が熱くて熱くてたまらない。
「その反応、かわいすぎんだけど」
「ひゃ…!」
背中から移動してきた手が髪の毛をくしゃっとつぶすように押さえられる。
ぎゅっと目をつむったタイミング、
ブーッ、ブーッ。
「で、でんわっ、」
マナーモードすら聞こえてしまう静寂が、そこにはあった。
「……いいとこだったのに」
わたしから腕を離してスマートフォンを耳に当てた久遠くん。
すぐに空気を変えて細々と会話を始める。
「はい、…はい、……情報ありがとうございます、鹿野(かの)さん」
重大な要件は終わったのか、堅苦しい雰囲気がほぐされた。
スッと一瞬、わたしに視線が移されたような。
「ははっ、そちらは相変わらず忙しそうですね。聞くたびに治安が悪いってウワサ立ってますけど」
たまに笑い声が聞こえる。
思ったより久遠くんも和気あいあいと話してるみたいだし、もしかするとお友達…?
でも朱雀の生徒や下っぱではなさそうだ。
だって彼が敬語を使う人間は、この高校にはいない。