Rain shadow─偽りのレヴェル─
「はあ…っ、はぁっ!はっ、」
どうしてわたしは走っているの。
内ポケットからすぐにでも取り出して、迷わず刺すべきだった。
それなのにどうして、そんな現実から逃げるように走っているの。
「爽雨さん……!!」
追いかけてくる後輩。
あなたには謝らなくちゃいけないのに、約束を守れなくてごめんって。
「ついて来ないで……っ!!」
行き先なんかない、どこへ向えばいいかも分からない、だからといって引き返すことなんかできない。
ただただ走って、ぜんぶが夢だ夢だと言い聞かせて。
「あ…っ、」
つんっと、石につまずいてしまった。
そのまま前のめりに倒れる身体。
兄が自殺をした日、お母さんから電話がかかってきたあと。
そのときもこんなふうに走って走って転んだなあって。
「っ……、」
だって涙で視界なんか意味なくて、雨がすごくて音すら消しちゃって、どうしようもなかったんだもん。
けれど、そのときあった痛みが今は無かった。
抱えこまれるように背中から回った腕が、膝だけをついたギリギリで止めてくれていた。