Rain shadow─偽りのレヴェル─
「…そんなに走ったら、危ないですよ」
「……はなして、」
「嫌です」
「もう…放っておいて……、」
「嫌です」
どうして今日に限って聞き分けが悪いの。
いつもわたしの言うことなら犬みたいに聞いてくれるのに。
文句なんか言わない、否定だってしない、いつもいつもわたしを守るように隣に座っていたのが蛇島 瀧だ。
「…っ、」
10月の体育館裏はどこか肌寒くて暗ったるい。
力尽きるように脱力してしまったわたしの背中を、それでも支えつづけてくれる。
「…話は、また今度にして、」
「わかりました」
やっと肯定してくれたのに、去ろうとはしない。
視角になる壁にもたれ掛かりながら座りこむわたしの前、そっとしゃがんで見つめてきた。
「放っておいてって、言ってる、」
「こんなに泣いてるんだから…放っておけるわけないじゃないですか、」
「…うるさいんだよ、もう僕に構うな…っ、」
目線を合わせてくる肩を無理やりにも押して、それでも離れないから胸を叩く。
どんっと叩いて、パーじゃなくてグーで叩いて。
せめて食らったふりをしてくれてもいいのに…と、情けを乞うてしまうほどに憐れ。