Rain shadow─偽りのレヴェル─




「…そんなに走ったら、危ないですよ」


「……はなして、」


「嫌です」


「もう…放っておいて……、」


「嫌です」



どうして今日に限って聞き分けが悪いの。

いつもわたしの言うことなら犬みたいに聞いてくれるのに。


文句なんか言わない、否定だってしない、いつもいつもわたしを守るように隣に座っていたのが蛇島 瀧だ。



「…っ、」



10月の体育館裏はどこか肌寒くて暗ったるい。

力尽きるように脱力してしまったわたしの背中を、それでも支えつづけてくれる。



「…話は、また今度にして、」


「わかりました」



やっと肯定してくれたのに、去ろうとはしない。

視角になる壁にもたれ掛かりながら座りこむわたしの前、そっとしゃがんで見つめてきた。



「放っておいてって、言ってる、」


「こんなに泣いてるんだから…放っておけるわけないじゃないですか、」


「…うるさいんだよ、もう僕に構うな…っ、」



目線を合わせてくる肩を無理やりにも押して、それでも離れないから胸を叩く。

どんっと叩いて、パーじゃなくてグーで叩いて。


せめて食らったふりをしてくれてもいいのに…と、情けを乞うてしまうほどに憐れ。



< 244 / 364 >

この作品をシェア

pagetop