Rain shadow─偽りのレヴェル─
そんなの情けないだけだ。
男として朱雀にきて、彼を殺すためにきて、ナイフまで常に持って。
それなのに久遠 綾羽の正体をやっと知れた今、知らなければ良かったと後悔して。
殺せないと思ってしまって、殺したくないとまで思ってしまって。
とても惨めで滑稽(こっけい)な、自分自身に対する期待なような気持ちを抱いていることに気づいて。
こんなの……馬鹿みたいだ…。
「やめて…、お兄ちゃんにしなかったことを…、わたしにしないで……っ、」
どうして頬を撫でてくるの、どうしてそんな顔をしているの。
その顔を“腹が立っている”なんて表したなら、笑わせる。
むしろ愛しくて愛しくてたまらないって顔のくせに。
「見ないで…っ、わたしを、見るな……っ」
「なら…おれが隠してあげます」
止まっていたマフラーの動きを再開させた瀧。
ぜんぶを隠してくれるように、途中で涙を拭いてくれる。
ひどいこといっぱい言ってる…。
いつも味方でいてくれた後輩に、わたしは謝りきれないほどのことをたくさん言ってしまった。
後悔と、情けなさと、呆れと、悲しみ。
「…やっぱりこんなんじゃ隠せられないな、」
アホらしく笑われたかと思えば。
ぐいっと、引かれて。
巻き途中だったマフラーごと引き寄せられて。