Rain shadow─偽りのレヴェル─
「……すごい雨、」
朝から生憎の雨。
地面を打ちつける雨粒が跳ね返っては、また音が重なって。
お母さんは車だから問題はないみたいな面持ちだったけれど、安全運転は必須だ。
「…ううん、ちょうどいいね」
生憎なんかじゃない。
最高な日だ、ぜんぶを隠してくれる雨を自然が落としてくれているんだから。
いつも内ポケットに入れていた、意味のないお守りのようなナイフはもう、明日からは必要なくなる。
“話があります。今日の19時、アジトで”と、夜中の薄暗い時間帯にメッセージをひとつ送っていた。
ろくに眠れなんかしない。
あの日からわたしは、嫌な夢ばかりを見る毎日だった。
「…大丈夫、できる、」
震える。
ずっとずっと震えつづけている。
太陽が昇る前に鳴ったスマートフォン。
“わかった”という返信を開くことすら手こずるほどに、震えが止まらなかった。
「これでいいんだよね…、……お兄ちゃん、」
すべての始まりでもある日記を読み返す。
何度も何度も読み返して、最後は悲しい内容で止まっている小刻みな文字をなぞった。