Rain shadow─偽りのレヴェル─
踏み込まない、聞かない、
カラスはカラスらしく寄り添ってくれる。
さっき冷たくしてしまったから気をつかっているのか、赤矢はわたしの背中をポンポンと叩いた。
「…赤矢…ありがとう、…さっきはごめん、」
「…んなの気にしてへんわ。またいつでもウチ来ぃや」
誰もいなくなった教室、わたしはぽつんと座って雨の音を聞いていた。
まだ約束の時間まで2時間はある。
「……かみなり、」
遠くで光った。
ザァァァァァと耳をつんざく音は、声すら掻き消してしまいそうだ。
───カタン。
18時が近づいた頃、ドアの前、雨ではない音が届いてくる。
「…まだいたの…?かみなり鳴ってるから早く帰ったほうがいいよ、」
「おれはあなたにそう言いにきました」
深雨さん───。
僕は爽雨だ、と訂正したって聞いてなんかくれない後輩。
あの日からちょっとだけ生意気になった。
「瀧、僕をからかうな、」
「なにをですか」
「…お前が男を好きだからって…あんなのは許されない、」
「おれは最初からあなたが爽雨さんじゃないって知ってましたから」
ほら、からかってる。
瀧は意外と性格が悪くてひねくれてる。
ここでも“あなたは爽雨にはなれない”って堂々と言ってくるんだから。