Rain shadow─偽りのレヴェル─




「もしそこに深雨さんも混ざってたら…やっぱりおれもそっちに行きたいな、」



だめだ、なに言ってんだよ。
そんなことしたら翠加に怒られるぞお前。

俺だって戻されたくらいなんだから。



「深雨さん、見えますか?これがいちばんきれいに咲いてる胡蝶蘭だったんです」



話しかけている。

俺の妹の名前を呼んで、どこか切なそうな声を出していた。



「花、好きですか?…あなたはいつもおれたちのことばかりで、自分の好きなものは話してくれませんでしたね」



深雨は花、すきだよ。

昔っから道端に咲いてる花を見つけると、必ず歩くペースが緩まるんだ。



「はやくあなたの笑っている顔が見たいです。…深雨さん、爽雨さんもここにいるんですよ」



どんな顔をしているんだろう。

返事がない存在へ話しかけつづけるそいつは、いまどんな顔をしてるんだ。



「…泣かないでください深雨さん、大丈夫、おれも爽雨さんもここにいますから、」



妹が、泣いているらしい。


そんなとき駆けつけるのは俺の役目だった。

名前を馬鹿にされてからかわれて、泣き虫なそいつはいつもいつも泣いていたから。



「…どうしよう、泣いてる…、ぜんぜん止まらないな、」



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