Rain shadow─偽りのレヴェル─
想像しただけでも深雨がひとりで背負った現実は恐ろしいものだった。
「おまえ泣き虫だからぜんぶ怖かったはずなのに…。こんな兄貴でごめんな…、ごめん、」
「…そのために俺たちがいたんだろ、爽雨」
お前らだけじゃない、と。
みんなで背負って、みんなで受け止めて、支えあう。
それはこの先だって───。
当たり前のように伝えてくれる綾羽につづいて、瀧もうなずいた。
「確かに最初の頃はしょっちゅう小さなことでも泣いてた。けど、我慢させるようになってからのほうが俺も辛かったよ」
綾羽はそう言って、反応がないままの手をぎゅっと握ると。
「…な、深雨。」
甘く名前を呼んでから、眠る深雨の目にかかった前髪を優しく流した。
そうやって見守ってくれていたんだろう。
俺の親友は、必死に俺になろうとしていた妹を近すぎず遠すぎない距離でいつも。
それで辛いときはおもいっきり泣かせてもくれたんだろう。
「…ありがとうな綾羽。お前がいてくれてく良かった」
「んなら、今日からお義兄さんって呼ばせてもらうわ」
「前言撤回。瀧、俺の妹は任せた」
「もちろんです」
「なんでだよシスコン」
今日はよく晴れている。
朝から雲ひとつない冬晴れの青空が広がっていて、俺たちにはちょっとだけ似合わない空だ。