Rain shadow─偽りのレヴェル─
「爽雨さん、」
「…あ。瀧、」
そして放課後。
そろそろ久遠 綾都の元へ向かおうと思っていれば、制服姿にマフラーを巻いた後輩が迎えにきた。
「綾都さんから聞きました。怪我の影響で軽い記憶喪失だって。
だから前もおれに聞いてきたんですね」
どうやらそんなふうに話を合わせてくれたらしい。
まだあれからわたしの本当の姿を詳しく話すことすら彼にもできていないけれど…。
だから今日、兄と親友だった彼にだけは話そうと思っていた。
「…そう、なんだ。ごめん、迷惑かけちゃって」
「おれは爽雨さんが生きててくれて嬉しいですから。迷惑なわけないですよ」
「…ありがとう」
お兄ちゃんは死んでいない。
お兄ちゃんはここにいる、水本 爽雨はここにいるんだ。
わたしがこうして生きることで兄が生き返ったような気さえもする。
「…ふっ、」
「……なにかおかしかった?」
マフラーで口元を隠すようにしながらも明らかに笑っている蛇島 瀧。
どこか面白いことでも…?
それかやっぱり女っぽいって思ったとか…?
それでもたぶん、彼の性格上、笑顔を誰かに見せることは珍しいんだろうなって感じる。