Rain shadow─偽りのレヴェル─
ふるっと揺れた目も唇も隠すように伏せれば、そこを見逃さない瞳がしゃがみかけてくる。
「ちがう。どんなに兄貴になろうとしたって、…おまえは泣き虫な深雨」
そういえばこの人だけだ。
わたしの名前を最初から呼んでくれたのは。
むしろわたしのことを「爽雨」とは1度も呼ばなかった。
「ほら、降ってきてんじゃん」
ぽたりぽたりと、大粒の雨だ。
こんな陰に降る雨だ。
「───うっ……わぁぁぁん…っ」
噛み締めた唇も、つむった目も、ぜんぶ無意味に溶かされてしまう。
「あぁぁぁぁぁーーーー…っ」
どうしよう、止まらない。
子供みたいにわんわん泣くことしかできない。
ずっとずっと我慢していたものがプツリと切れてしまったみたいに。
毎日の学校生活だって怖くてたまらなくて、トイレにすら行けない毎日で。
「…3分な、どこかの奥さんがカップラーメン作り終わるまで。そしたら泣き止め」
ふわっと引き寄せてくる。
この時間にカップラーメン作る奥さんっているのかな…。
だってもう早い家庭は夕飯時だよ?
「うぅぅーーーー…っ、…あっ、はなみず、」
「おい」
言葉とは裏腹に、ぎゅっと抱きしめられた。