Rain shadow─偽りのレヴェル─
なにが嫌なの…?
良いこと、じゃないの…?
だってそれは意識しなくても男になれているってことなんだから。
いつの間にかわたしは、水本 爽雨になれているらしいのだ。
「わ、わからないけど…気づいたらこうなってた、」
「…なんだよそれ。自然ってこと?」
「……たぶん」
どうしてあなたがそんなに悔しそうな顔をしているの?
男になるって決めたのはわたしで、言ってしまえばこんなのわたしの勝手だというのに。
それにしても……。
この体勢はなかなか際どいんじゃ…。
「…クラスの奴らとかに乱暴されたりは?」
「え、とくには、」
「なんかあったら俺に言って。翌日から来なくさせるから」
「……逆に言えないよそれは」
「なんでだよ」って、ちょっとだけ怒った返事が心地いい音で響いた。
この男にはこの男にしか出せない声というものがあって、たとえどんな場面だとしても聞き入ってしまうのではないかと。
「前はあんな大泣きしてたってのに」
「……あれは、忘れて、」
「忘れるか馬鹿。5分は抱きしめてやったの誰だと思ってんの。
とっくに麺だって伸びて、さぞかし奥さんたちは困ってただろうな」