Rain shadow─偽りのレヴェル─
「…ありがとう、久遠くん」
じわっと涙が浮かんだ。
ふたりきりのときは深雨で居てもいいなら、この涙だって許してくれるよね。
「……綾羽は、死んだよ」
けれどわたしの涙を親指ですくって、彼は静かに放った。
「だから綾羽に何か目的があるお前がここにいる理由も、実際はない」
うん、知ってる。
わたしだってそこは考えていた。
だけどわたしは、いつの間にかそれだけじゃない理由ができてしまっていて。
「…わたしは……、“僕”として、元のRain shadowに戻したい、」
「…ほんとに反乱を止めてくれんの?」
「うん。きっとお兄ちゃんが生きてたら…そう言うはずだから、」
小さな頃からずっとずっと助けられてきた。
泣いているわたしの手を引いてくれたのは、必ずお兄ちゃんだった。
恩返しになるかもわからないし、天国にいるお兄ちゃんには今更なんだよって言われるかもしれないけれど。
それでもあのとき放送室から伝えた気持ちは嘘ではなかったから。
「それにね、久遠くん」
窓には夕焼けが広がっていた。
梅雨だとしても、こうして晴れるときだってある。