Rain shadow─偽りのレヴェル─




実の母親なのに娘と息子を間違えるなんて、落胆に似た気持ちを感じて、なぜか脱力してしまいそうになった。


わたしはお兄ちゃんじゃないよお母さん。

爽雨(そう)じゃなくて深雨(みう)だよ、水本 深雨(みずもと みう)。

お兄ちゃんは小柄だったから背丈はそこまで変わらないけど、声は少し違うでしょう?



「聞いて爽雨ちゃんっ、深雨がね、深雨が……、自殺しちゃったの…っ」


「……え?」


「10階のビルから飛び降りたんですって…、うぅぅっ、」



どういうわけか彼女のなかで記憶がすり替えられていた。


なにを言ってるの、と。

そのままだと本当にわたしという存在が生きれなくなってしまうのに、と。

それでもわたしは変なことを思ってしまった。


わたしって、爽雨として生きることもできるんだ───と。


そうすればお母さんは精神を取り戻すかもしれない。

それはそれで悪いことではないんじゃないか。



「…母さん、僕は…ここにいるよ。僕が、爽雨だよ」


「うんっ、うん……!!」



家ではそうしよう。

お母さんにバレないように女の子として外の生活をして、家ではお兄ちゃんになろう。



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