若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
『続きは、素面のときにする』――慶の言葉が、頭の中で繰り返される。

(酔っているからするんじゃないの?)

素面だったらこんな状況にはならない。ぼんやりとそう思いながら目を閉じる。

慶も美夕も、明日の朝にはなにも覚えていないだろう。

情熱的にキスを交わしたことも、不貞疑惑に腹を立てられたことも、このまま深く抱き合ってひとつになりたいと感じてしまったことも。

(どうせ、明日には忘れてしまうのだから……)

ならばどうでもかまわないと自分を納得させ、美夕は目を閉じた。



翌朝。ベッドから上半身を起こした美夕は、二日酔いでわずかに痛む頭を押さえ膝を抱えた。

(全然忘れてないんですけどー……)

キスの感触は唇にしっかりと残っている。

彼の胸の逞しさも、圧し掛かってくる心地よい重みも。額を撫でる彼の艶やかな髪も。

闇の中で美夕を捕食しようとする、妖艶な光を携えた眼差しも。なにもかもくっきりと記憶に残っていて悩ましい。

(翌朝には忘れてるんじゃなかったの……?)

初めての本気のキス。初めての情事。

エッチまでは至らなかったものの、美夕の中では大事件だ。

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