若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
美夕の妻が慶だということよりも、慶の妻が美夕だとバレることの方がまずい。

美夕の父は横領の罪で現在もなお拘留中――犯罪者だ。この情報が世間に広まれば、慶に迷惑がかかる。

(私の父の件がまだ会社にバレていないこと自体、奇跡だけど)

美夕が文嶺出版に入社した理由のひとつに、歴史の浅さがある。父が非難的な報道をされていたとき、文嶺出版はまだ存在していなかった。

父のことを罵った会社には、さすがの美夕も入りたいとは思わなかった。

「まあ、今年もひとりで行けばいいか」

どうせ去年もひとりだったのだから。

しかし、美夕がカードを封筒にしまおうとしたとき、背後からぬっと手が伸びてきた。

「なんだこれは」

カードを取り上げられ、驚いて振り向く。

そこにはスーツ姿の慶が立っていて、カードをまじまじと眺めながら「へえ」と眉を跳ね上げていた。

「っ、け、慶、いつの間に帰ってきてたの!? 足音を消して忍び寄るのはやめて――」

「おかえりは?」

自分こそ『ただいま』なんて言わなかったくせに。美夕は仕方なく「おかえりなさい」と答える。

「って、そうじゃなくて、カードを返して!」

美夕は手を伸ばすけれど、慶はひょいっと身を翻し、それを避ける。

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