若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
「だから出なくてもかまわないと」

「これ以上隠すのは不可能だ」

慶の警告に背筋がすっと冷える。六年も妻の正体を隠してきたのに、ここに来てどうしてだろう。

慶が少々面倒くさそうに説明する。

「一緒に住み始めた時点で、お前の情報が出回るのは時間の問題だ。ふたりで朝食を食べるだけでも噂は広がる」

レストランに朝食を食べにいったときのことを言っているのだろうか。

ほんの一瞬ではあったが、あの場に慶の顔を知る人間がいれば、調べられても不思議ではないだろう。

「それに、今後ふたりで行動することも増えるだろう」

「……増えるかしら?」

「夫婦なんだから買い物や旅行のひとつも行くだろう。というか増やせ。夫婦なんだから」

二回言われた。慶が自分と出かけたがっているなど、美夕は予想もしなかったので、毒気を抜かれたような気分になる。

「でも……慶はいいの? 私は犯罪者の娘なのよ?」

旧財閥の跡取り息子の嫁が、巨額横領した元会社社長の娘。

こんな衝撃的な事実が発覚すれば、間違いなくゴシップ誌の表紙を飾る。

経営にも支障が出るだろう。不信感を抱く者も出てくるかもしれない。

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