若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
廣田は美夕に名刺を押しつけて帰っていく。横で傍観していた桃山が「おはよー」と声をかけてきた。

「さっきマネーランナーの編集長も来てたわよ。あとでまた来るって」

「そうでしたか……ありがとうございます」

マネーランナーとは文嶺出版が発行している経済誌だ。ビジネスリーダーや経営者、投資家などを取り上げ報じている。

高嶺社長もそこに慶の取材記事を載せたいと、パーティーで漏らしていた。

(やっぱり、放っておいてはくれないわよね)

身内にとんでもない金ヅルがいる――と言うと下世話だが、利用できるものは利用しなくてはと思っているだろう。

「それにしても、旦那さんと仲がよさそうで、ちょっぴり安心した」

「へ?」

思いがけない桃山の言葉に、美夕は声を裏返らせた。

「寄りを戻したって言ってたあたりから、北菱さん、顔色がいいもんね。憑き物が落ちたっていうか」

「そう……ですか?」

「ちょっと表情が明るくなった気がする。ね、青谷くん」

我関せずといった具合にPCと向き合っていた青谷が、声をかけられピクリと反応する。

ずっと聞いてはいたのだろう、少々不満顔で「そうですかね」と曖昧な返事をした。

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