若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】

「それはダメだよ。こうなった以上、君を巻き込むわけにはいかない」

「娘さんには今の名前を捨ててもらい、北菱美夕として生きてもらいます。そうすれば、世間から指を差されることもない」

「……慶くん。君は僕の大事な教え子だよ。美夕を苦しめるのはつらいが、君に犠牲を強いるのもつらい。結婚は、本当に好きになった人としなさい」

花柳の手が慶の肩に乗る。小学生のとき、頭を撫でてくれたその手はとても大きく見えたが、今では小さいとすら感じる。

やはり恩を返すなら今しかない、慶はそう決意する。

「俺は先生の息子になりたいと思っていました」

「そのために美夕をくれって？　それはそれで了承しがたいなあ」

「必ず美夕さんを幸せにします。俺が信じられませんか」

今では年上の役職者ですら怯んで口をつぐむ、真っ直ぐな眼差しを花柳に向けると、彼はふっと口もとを緩めて、柔らかな笑みを浮かべた。

「信じないなんて、そんなわけがない。僕は世界で一番君を信頼しているよ」

笑顔が悲しげに歪む。心の揺らぎが震えとなって、慶の肩に置かれた手から伝わってきた。