若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
ふたりの物理的な距離は遠ざかる一方だというのに、心の距離だけは勝手に縮まっていく。美夕の報告を聞くたびに、愛おしさが積もっていくようだ。

せめて成人式に振袖を、誕生日にはささやかな花束を送った。

当の美夕は慶のことなど忘れて日々勉学に励んでいることだろう。それでかまわないと思いながらも、やりきれない思いが募っていった。

桐江が美夕のそばを離れてからも、たびたびGPSで居場所を確認してもらった。

なかなか家に戻らない日は、桐江をその場に向かわせたこともある。

女同士で飲み会をしている写真がメールに同封されてきたときは、人知れず安堵したものだ。

男がいなくてよかったなどと、父親のような――いや、恋焦がれる少年のような、複雑な気持ちで美夕を見守っていた。

そしてとうとう美夕は就職し、自身の力で安定した生活を送れるようになり、選択の自由を得た。

差し出された離婚届に、それでいいと感じる反面、湧き上がってきたのはやるせなさ、そして悔しさだ。

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