若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
「周囲を騙すための小道具みたいなリングしか、渡してなかっただろ」

美夕は「そんなこと……」と声を上げる。

入籍直後に渡されたペアリングは、離れていたふたりの心を確かに繋いでくれていた。

美夕にとって大切な結婚指輪。

だが今、指にはまっているものは、結婚指輪というよりは婚約指輪だ。

「結婚指輪はあえてシンプルなものを選んだ。いつでも捨てられるように。お前が、俺との離婚を決断したとき、うしろ髪を引かれないように」

かつて慶は、自分に自信を持っていなかったという話を思い出す。

慶は生来の自信家というわけではなく、努力に裏打ちされたもの、根拠のあるものしか信じない。

ふたりが離れて生活している間、美夕が慶からの愛を信じられなかったように、慶も美夕から愛されていると実感できていなかったのだろう。

そう考えると、慶の不安が伝わってくるようで、美夕は胸が痛んだ。

「婚約指輪はずっと渡せずにいた。お前の人生を縛ることに、躊躇いがあったからだ」

慶の手が頬に触れる。過信のない真剣な眼差しに、気持ちがぐんと引っ張られた。

「今なら迷いなくプロポーズできる。俺の妻でいてくれ。永遠をともに歩むと、このリングに誓ってほしい」

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