若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
第二章 愛してやろうか
(父が横領しただなんて、きっとなにかの間違いだわ)
美夕はそう信じて疑わなかった。
父はお金に執着するようなタイプではなく、とてもおおらかで誠実な人間だった。横領などするわけがないと、美夕は自信を持って言える。
しいて弱点を挙げるならば、真面目すぎるきらいはあった。正義感が強く、こうと決めたら曲がらない性格で、融通が利かないとも言える。
だが、そんな父の性格だからこそ、横領疑惑とは結びつかない。
両親には聞きたいことがたくさんあったが、父は身柄を拘束されており連絡が取れず、母は事件発覚直後、心労で倒れて入院してしまった。
母とは一度、電話でやり取りをしたが、母自身状況を把握できておらず混乱していた。
美夕は『お父さんが戻ってくるのを信じて待とう』と声をかけるので精いっぱいだった。
事件がどうなっているのか、父の疑惑は晴れるのか、誰にも聞けないままもう三日が経つ。
「美夕さん。少しだけでも召し上がってください」
桐江が朝食のクロックムッシュとポタージュを持ってきてくれる。
美夕の家事修行は一時中断、そもそもここ三日間、ほとんど食事をしていない。
ダイニングチェアに座ってぼうっとしたり、ベッドに横になったりを繰り返している。
美夕の〝悩んでいても仕方がない〟というモットーも、さすがに今回ばかりは通用しなかった。