若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
最後に目を合わせて会話をしたのは、おそらく十年前。美夕がまだ八歳だった頃で、子どもをあやすようなやり取りだった。

(どうして私との縁談なんて応じたんでしょうね)

美夕はまだ若く将来性豊かではあるが、嫁ぐには分不相応だと、本人ですらよく理解している。

美夕の父親も大手不動産会社の社長ではあるが、五大財閥と呼ばれている北菱家とは格が違う。

(慶さんは、うちの父に恩義があるみたいだけれど、だからって、娘との結婚まで承諾するとは思えないわ……)

悩んでいても仕方がない。直接聞いてみようと、美夕は無駄な考えを振り払った。

美夕は割とドライで、悩むくらいなら割り切って、他に目を向けようと考えられる性格だ。

だから、突然父親から結婚を命じられても、抗うことはなかった。それはそれで幸せになれると思ったのだ。

今も抵抗ひとつせず、スケスケ下着を身に着けて夫の帰りを待っている。

もちろん、色仕掛けをする相手が慶だからというのもあるけれど。

(慶さんは素敵な人……と言っても、十年前の記憶なのだけれど)

さすがに十年も経てば変わってしまっているだろう。優しいままの彼ではないはず。それを知るのが怖くもある。

ふう、と短く息をついて、不安が消えるよう努める。

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