若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
「だが、必ず時が来れば出所する。ようやく外に出られたとき、娘が人生投げだしていたら父親はどう思う?」

ハッとして息を呑んだ。これまで、世間への恨みや自分の苦しみにばかり目を向けて、父親の気持ちを考えていなかったことに気づく。

父は今、どう思っているのか。圧しかかる不条理にもがき苦しみながらも、娘や妻のことを心配しているのではないだろうか。

きっと父が感じているのは、家族をこんな目に遭わせてしまったという罪の意識――。

顔を上げると、慶の表情から鋭利さは消えていた。ただ真摯に、誠実に、美夕の目をじっと見つめている。

「父親が戻ってきたとき、立派に成長した姿を見せてやるべきなんじゃないのか」

でなければ、父は自分を責めるだろう。

美夕は自分のやるべきことがわかり、胸に巣食っていた黒い闇がすっと取り払われた気がした。

やるせなさを抱え、悔しくて、悲しくて、誰に対するものでもない憎しみを抱き続けていたけれど、ようやく自分にできることが見つかった。

(私には父は助けられない。でも――)

父の心を救うことならできる。父が抱える胸の痛みを減らすことならできるだろう。

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