若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
ベルベッド地の滑らかに輝く箱を開くと、中にはシンプルなプラチナのリングがふたつ並んでいた。

「外では既婚者を名乗ってもらう。これはカモフラージュのようなものだ。疑われないためにつけておけ」

美夕の左手を取り、薬指にリングを滑らせる。もうひとつ、大きな方のリングは自身の左手の薬指へ。

「慶さんも、つけるのですか?」

「でなければカモフラージュの意味がない」

美夕の左手の薬指と、慶の左手の薬指に、同じ指輪が輝いている。

愛などない。肩書だけ、そう言われたにもかかわらず、なぜだか胸が高鳴ってそわそわする。

とても不思議な気分で、誇らしくもあり虚しくもあった。高揚するようでいて、ひどく悲しい気持ちにもなる。

これはこの家に自分を繋ぐための枷のようなものだと、美夕は理解した。

「俺を頼らずとも生きていけるようになったら、その指輪を返せばいい」

それだけ言うと、慶は席を立つ。

同時に、玄関で鍵の開く音がして「そろそろよろしいでしょうか?」と桐江が顔を覗かせた。

「ちょうど帰るところです」

「もうお帰りに? ゆっくり美夕さんとお話をしていかれては――」

桐江の手には近所にあるパティスリーの紙袋。どうやら慶をスイーツと紅茶でおもてなししようと考えていたらしい。

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