若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
そんなロマンティックなものではないけれど、と美夕は心の中でつぶやき嘆息する。

桐江が買ってきたのは生クリームがたっぷり入ったモンブランだ。ベージュ色のマロンクリームに、金箔の振りかかった洋栗が載っている。土台はサクサクのメレンゲだ。

ふたりはダイニングテーブルに向かい合って座り、紅茶とモンブランをいただく。美夕が「おいしい」とつぶやくと、桐江はふわりと頬を緩めた。

美夕はフォークを置き、紅茶をひと飲みすると、あらたまって切り出す。

「桐江さん。私、大学を辞めようと思うの」

桐江は「えっ」と再び表情をこわばらせた。

しかし、憑き物が落ちたような美夕の顔を見て、やけになっているわけではないのだと理解したようだ。

美夕の目線の先には、パンフレットの束。前向きな目標があるのだとわかったのだろう。

「慶様は、素晴らしい方ですね」

突然慶の話になり、美夕は驚いて「どうして?」と首をひねる。

「だって、あんなに落ち込んでいた美夕さんをここまで元気にしてしまうんですもの。その指輪だって」

美夕は左手の薬指を握りながら目を逸らす。

「そんなんじゃないわ」

桐江は夫婦愛を想像しているのだろうけれど、違うと美夕は心の中で否定する。

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