若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
(もう私は一人前になった。ひとりで生きていける)

働いて稼いだ金は、ほとんど貯蓄に回している。いざここ出て独立することになっても、すぐに家が借りられるように。

かつて慶は言った。『俺のもとから逃げ出したいと思うなら、一人前になって自活してみせろ』と。今がそのときだ。

(ずっとこの日のために頑張ってきた)

もちろん、ここまで養ってもらえたことには感謝している。

だが、決して愛を注いでくれない夫の存在は、美夕の精神をすり減らし続けている。

お互い解放されるべきだ。

その日、美夕は慶にアポイントを取ると、引き出しから離婚届を出して署名を済ませた。



後日。慶が美夕の自宅を訪れた。直接顔を合わせるのは六年ぶりとなる。

とはいえこの六年間、完全に放置されていたわけではない。

誕生日には花束が届いた。ほかにも、成人式の前に着物が送られてきたり、就職祝いに高価な時計をもらったりと、一応忘れられてはいないようだったが、一度も顔を見せないあたり、最低限の役目を果たしたといった印象だ。

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