若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
(私、とうとう離婚するのね)

悩みが晴れると同時に、いざ離婚を突き付けられると、なんともいえない虚しさが押し寄せてきた。

美夕は、手もとの二枚の紙を見比べる。

一枚目は南青山。最寄り駅は表参道のようだ。住所に二十五階と書いてあるところを見る限り、高層マンションなのだろう。

もう片方は南麻布。麻布と聞いただけで高級だとわかる。

「両方とも、家賃が払えません」

この人はもしかして庶民の給料を知らないのだろうか。誰もがひと月五十万くらい軽くもらえると思っている? 美夕が胡乱気な目で睨みつけると、慶はやれやれと肩を落とした。

「南青山の物件は、離婚時の財産分与もかねてマンションを一室贈ろうと思っている。売れば億は下らない」

億ションをくれようとしているのだと知り、美夕はかちんと凍りつく。羽振りがいいというかなんというか。そんなことを望んでいたわけではないのだが。

「麻布の方は、俺の自宅だ」

「え」

「成城の実家は交通の便が悪いから、こちらにセカンドハウスを置いている。セカンドと言っても、ほぼここで暮らしているがな」

なるほど、それで慶はなかなか実家に戻ってこなかったのか、と今さらながら腑に落ちる。

いや、腑に落ちている場合ではない、慶の自宅が転居先の候補に含まれているということは。

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