若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
慶は美夕の反応を見て、にやりと口の端を跳ね上げる。

腕を解き、今の甘い態度はなんだったのかと聞きたくなるくらい、冷静につかつかと歩いていった。

(からかわれた? バカにされたの……? 私は手のひらの上で転がされているの?)

あの態度は美夕を黙らせるための演技だったのだろうか。無性に腹立たしい。

今さら引っぱたいてやりたい衝動に駆られた。



ふたりはハイヤーの後部座席に向かい合って座った。美夕は進行方向を向き、慶は運転席を背にしている。

運転席は仕切られているが、声はそれなりに届くだろう。

文句を聞いてもらう約束だったが、他人に知られてはまずいような内容がてんこ盛りで、口を開くのがはばかられた。

「言いたいことがあるんじゃなかったのか?」

こちらの気遣いなどおかまいなしに、慶は冷ややかな目を向けてくる。

「いいんですか? 他人に話を聞かれて」

美夕がちらりと運転席を見やると、慶はおもむろに腰を浮かせ、美夕の隣にどっしりと座り直した。

「な、なんですか」

「他人に声が聞こえなければいいんだろう」

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