若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
慶は美夕の後頭部に手を回し、自身の胸もとに引き寄せる。ごつ、と慶の鎖骨に鼻があたり、美夕は「ぶっ」っと声を上げて目を剥いた。

「なん、な、なん――」

「この距離で会話をすれば、運転席には届かない」

「だからって、こんな――」

「緊張しているのか? 十八のとき、下着姿で迫ってきた女と同一人物とは思えないな」

慶がくくっと喉の奥で笑う。美夕は「迫っていません!」と大声をあげて否定した。

さすがに運転席にも声が届いただろうが、しかし、運転手の後頭部は微動だにせず、ノーリアクションを貫いている。

美夕は慶から距離をとり、反対側のウインドウに背中をくっつけるようにして睨んだ。

「どういうつもりですか。六年間も私を遠ざけておいて、今さら」

「あのときのことをまだ根に持っているのか? 十八のガキを抱いたら犯罪だろう」

「結婚していたので、犯罪にはなりませんが」

「倫理的なことを言っている」

慶が存外真面目な顔を向ける。強がっていた美夕だが、思わず黙り込んだ。

「拒否権もなく嫁がされ、父親は程なく捕まり、帰る場所も失った。子どもを産めと命じられ俺に抱かれたところで、お前は納得のいく人生を歩めたのか?」

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