若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
ごくりと息を呑む。美夕は今の仕事が好きだ。あのとき、大人しく北菱家の嫁として収まっていたら見られなかった景色が今ここにある。

そしてそれは、慶の思惑通りなのかもしれない。

「自分で道を選べる程度には、大人になったはずだ。俺に縋りついて生きる必要も、もうないだろう」

美夕はこくりと頷く。慶に依存するしかなかったあの頃とは違う。美夕はもう籠の鳥ではなく、自分ではばたくことを覚えた。

「あらためて選べ。この先の人生を、どうしたいか」

美夕はきゅっと唇をかみしめる。

結局、慶と向き合って気づいたことといえば、自分がいかに子どもだったかということだ。慶と同じ土俵に立つために、必要な六年間だった。

「一カ月後、もう一度聞いてやる。この先も俺と一緒に生きていくか、ひとりで自由に生きるか。お前自身が選べ」

強引に連れてこられたわけではなく、美夕の意思を尊重してくれているのだと気づき、口をつぐむしかなくなる。

尊大でいじわるではあるが、筋の通った人だ。この人と口喧嘩をしても勝てそうにないと、予期せず思い知った。

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