若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
美夕はふてくされながら、クロワッサンを大きめにちぎり口に運ぶ。サクサクふわふわ、バターの香りが強くてとてもおいしいが、心中は複雑だ。

「明日からは家で食べましょうね。慶さんの分のヨーグルトとフルーツも買っておきますから。あ、でも、あーんはしません」

「本当に強引だ」

そうぶつぶつ文句を漏らすものの、慶はヨーグルトを綺麗に完食してくれる。

なんだかんだこちらに合わせてくれることが、美夕は嬉しかった。



「おはようございます~……」

こういう日に限って日比谷線はまさかの遅延で、オフィスのある日本橋についたのは定時ぎりぎりだった。

広尾周辺は駅やバス停が密集している地域。探せば迂回路もあったはずだが、慣れない土地で手間取ってしまった。

二日連続で遅刻しかけたことに罪悪感を覚える。

「おはよ。朝からぐったりして、大丈夫?」

桃山が猫マグを片手に尋ねてくる。青谷が離席中である今が好機だと、美夕は小声で事情を説明した。

「実は、夫と同居することになりまして」

「わぁお。っていうか、同居ってなに? ごく普通の結婚生活に戻っただけじゃない」

「まぁ……そうなんですけどね……」

事情が事情なだけに状況はまったく普通ではない。

< 82 / 254 >

この作品をシェア

pagetop