若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
「復縁おめでとー」

桃山が能天気にぱちぱちと手を叩く。

あまり騒がれたくなかった美夕が「ちょ、桃山さんっ」と慌てて回りを確認すると、ちょうど通りがかったとんでもない人物と目が合ってしまった。

「そうか。北菱さん、旦那さんとうまくやっているんだね」

にこにこ朗らかな笑みを浮かべながら近づいてきたのは、この文嶺出版を五十歳で立ち上げた代表取締役社長、高嶺紀一郎(たかみねきいちろう)

パンツとジャケットが異素材でフォーマルながらもおしゃれな、こだわりのある格好をしている。線の細い金縁眼鏡がトレードマークだ。

定時になるとこうして社内を練り歩き、社員に声をかけて歩くのが日課の、親しみやすい社長でもある。

「ああ……えっと、おかげさまで、はい」

美夕は思わず口ごもってしまう。

高嶺社長と初めて会ったのは、就職活動中だった約二年前、社長面接のときだ。

そこで美夕は、自ら結婚していることを告げた。隠していると、いざ就職して事務手続きをする際に婚姻歴がバレ、気まずくなると聞いたからだ。

今は別居中であり、就職を第一に考えていること、妊娠の予定はないことも言い添えた。でないと落とされてしまうのではないかと怖かった。

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