若き金融王は身ごもり妻に昂る溺愛を貫く【極上四天王シリーズ】
しかし、高嶺社長は『結婚している女性も、子どものいる女性も、楽しく働ける会社がいいよねえ』とからりと笑った。

美夕は不要な心配をしていたのだと気づき、肩の力が抜けた。高嶺社長にとっても美夕は印象的だったらしく、入社後も気にかけてくれている。

「よかったよかった。ちょっぴり心配していたんだ。若いのにもう別居なんて言ってたから」

新卒の面接試験で『既婚者、しかも別居中』というカミングアウトは、五十年を超える人生経験があってもなかなかの衝撃だったのだろう。

高嶺社長はのんびりとした様子で歩きながら、去り際にひと言ぽつりとこぼした。

「今年のパーティーは、ぜひ旦那さんも一緒に参加してくれ」

美夕はぎょっとするも、社長はすでに隣のチームのメンバーに声をかけている。断るタイミングを逸してしまった。

毎年秋に行われる文嶺出版の周年記念パーティーには、同伴者を連れてきてもかまわないことになっている。

今年のパーティーは半月後と迫っており、美夕は連れていく相手もおらず、ひとりで参加しようと考えていた。

慶を同伴者に――正直言ってとんでもない。というより無理だろう。あの忙しい慶が、そんな時間を捻出できるわけがない。

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