童話書店の夢みるソーネチカ
 白シャツにスーツ地の黒のベスト、その上からエプロンをかけた柳木は、レジのカウンターに体を預けた。

 これはこの店の制服であり、千花も同様の服装をしている。サイズは柳木のものよりひと回り小さく、下は膝丈のスカートという違いはあるけれど。

「ストーリーは、まあ知ってるだろうな。桃から生まれた桃太郎が爺さんと婆さんにきびだんごもらって、イヌ、サル、キジ連れて鬼退治に行くって話だ。お前はこの話に続編があるのを知ってるか?」

「えっ、続きあるんですか⁉」

 千花は驚いて反射的に顔を上げた。まさかそんな話、生まれてこの方聞いたことがない.……。

 ついていけない童話談義を煩わしく思うこともあるが、興味深いトリビアを教えてくれる柳木との雑談を千花は有意義に感じていた。

 切れ長のつり目で威圧感のある柳木が嬉々として童話愛を語っている。この時間だけは柳木に似合わない優しい声が聴けるのだ。

 そんな普段とのギャップを嬉しく思いながら、解説を聞き逃さないように千花は耳を澄ませた。
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