童話書店の夢みるソーネチカ
「続編って言っても公式の物語じゃないけどな。江戸時代にいくつかの二次創作物が発表されてる。特に俺が好きなのが一七八四年に書かれた『桃太郎元服姿』って作品だ」

 ……元服って確か昔の成人式みたいなやつだよね。

 桃太郎が大人になった未来のお話なのかなと推察する千花に、カウンター越しの柳木が背中で振り向いて続けた。

「宝をとられた鬼たちは桃太郎に復讐したい。だから暗殺計画を立てた。そんで島で一番きれいな鬼の娘、おきよを桃太郎のところに送るんだ」

 それってつまり――。

「ハニートラップ、ですか?」

 正解、と柳木が親指と人差し指で丸を作った。

 男らしく血生臭く、残忍に。千花にとって鬼とはそういうイメージだった。

 鬼の威厳はどこへ……と呆気にとられたまま、ハニートラップの行方に耳を傾ける。

「人間に化けたおきよは驚くことに、桃太郎と暮らすうち彼に恋しちまうんだ」
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