童話書店の夢みるソーネチカ
 まさかのラブストーリー⁉

 千花の脳内の『桃太郎』は崩れつつあった。勧善懲悪の王道物語ではなかったのか……。

 とはいえ、千花も年頃の高校生。恋物語となればそれはそれで興味の対象である。

 異なる立場の者同士の恋、というのは千花の好むジャンルでもあった。

「だが切ないことにこれは悲恋の物語だ。仲間の鬼たちを裏切りたくないが桃太郎も殺したくない。おきよは苦難の末、自害してしまう」

「それはなんというか.……」

 やるせない。けれど、大切な人を傷つけたくないおきよの優しさが尊いものに思えて美しい結末に感じられた。

 柳木がこの作品に魅せられ、好きだと言った理由も分かったような気がする。

「このことを知った桃太郎はその後鬼退治をしなくなったってのもいいんだよな。桃太郎もおきよのことを大切に想っていた。俺は悪を懲らしめる作品ってのはあんま好かねえ。だって見方が変わればどっちが悪かなんて分かんねえだろ?」

 ……あまねく童話に盲目的な人かと思ってた。

 柳木の言わんとするところは千花にも理解できた。

 そういえば桃太郎の作中で鬼が悪さしている描写ってないんだよね。鬼からすれば桃太郎が侵略者ってことか。
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