雷鳴に閉じ込められて
「タケミカ様……!」

もう心は限界だった。萌黄は立ち上がり、神社へと向かって走っていく。事件現場にやって来た父たちが何かを言っていたが、振り返ることなく雨が止んだばかりの地面を踏み締める。

(そういえば、縁談相手だった二人の遺体が発見された時も、雨が上がった頃だったな)

昨晩は、バケツをひっくり返したかのような大雨が江戸の街を濡らしていた。そして、漆黒の闇に包まれた空には何度も雷が光り、萌黄は恐怖を覚えたのだ。まるでその轟きは、誰かの怒りのように思えたからである。

ドクドクと少し嫌な予感がした。だが、タケミカに会いたいという気持ちの方が強く、萌黄は階段を一段ずつ登る。ここに前に来たのはいつだっただろうか。夜にこっそりと家を抜け出していたあの時の気持ちを思い出してしまう。

「タケミカ様、いらっしゃいますか?」

鳥居をくぐり抜け、萌黄は辺りを見渡しながら言う。烏が神社に植えられた木から勢いよく飛んでいき、ザワザワと風が吹く。萌黄の額に汗が浮かんだ。
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