さくらの結婚

寝込むさくら

 海浜公園から徒歩二十分の住宅街に家はあった。
 真由美と一緒になった時に購入した中古の一戸建てで、築年数はさくらと同い年になる。  

 五時半丁度に家に着いた。
 玄関のたたきにさくらの黒いパンプスがあった。さくらがこの時間に帰っているのは珍しい。

「さくら、いるのか?」

 玄関正面の階段から二階に声をかけるが返事はない。
 音楽でも聴いてて聞こえないのか、それとも聞こえないふりをしているのか。

 やれやれと思いながら、リビングの灯りを点灯した時、ソファで横になっているさくらを見つけた。

「さくら?」
 
 ソファの前まで行き、屈んで覗き込むと、茶色のブランケットに包まったさくらが、真っ赤な顔をして苦しそうに寝ていた。

「一郎?」
 普段よりも弱々しい声でさくらが口にした。

「大丈夫か?」
「ダメ」
 力なくさくらが笑い、体調が悪くて早めに帰って来たけど、家に着いた途端に力が抜けて自分の部屋まで行く体力がなくなっちゃったと、僕に話した。
 
 おでこに手をあてると、高い体温が伝わってくる。
 熱を測ると三十九度もあった。

「病院に行くか?」

 苦しそうにさくらは首を振る。
 喉がかわいたと言うさくらに水分補給をさせてから部屋に連れて行った。
 ベッドに寝かせ、寒がっているさくらにたくさん布団をかけた。

「体調が悪いなら連絡くれれば良かったのに」

 ベッドの側に座りさくらを見た。目が合うと涙ぐんださくらが「もう一郎に会えないかと思った」と、空気に溶けてしまいそうなか細い声で口にした。
 
 さくらの不安な気持ちが伝わり堪らなくなった。
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