妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
「姉さま、本当にお元気そうで何よりですわ。お父様やお母様、紀柳達も皆元気なのかしら?」


 華凛は朗らかに微笑みつつ、そっとわたしのことを覗き込む。


「――――そんなことより、華凛! 一体どうなってんのよ!」

「……どう、とは? 家のことは恙無く引き継げたと思っておりましたが」


 本当は華凛みたいに当たり障りのない内容から話し始めるべきだって分かっている。だけど、わたしにはどうしてもハッキリさせたいことがあった。



「家のことじゃないわ――――憂炎のことよ! あいつ何なの⁉ めちゃくちゃベタベタしてくるんだけど! 華凛が相手だといっつもああなの?」

「ベタベタ? …………あぁ! 憂炎のスキンシップのことですわね」


 クスクス笑いながら、華凛はゆっくりと目を細める。


「憂炎の癖みたいなものだと思います。わたしを見ると、ついつい可愛がりたくなるんですって。まるで犬や猫を愛でるような――――そんな気持ちなのだと思いますわ」

「何よそれ!」


 正直わたしは、憂炎が華凛に構う所を見たことが無かった。あいつが追いかけてくるのはいつもわたしの方ばかり。双子の妹である華凛とは会話をしている所すら見たことが無かったというのに、裏ではそんなやり取りが繰り広げられていたのか――――そう思うとお腹のあたりがモヤモヤした。


「バッカじゃないの、憂炎の奴! それだったら初めから華凛を妃にすればよかったのに……!」


 わたしは開いた口が塞がらないまま、眉間に皺を寄せた。


「……うーーん、そうですねぇ。確かにそちらの方が良かったのかもしれません。
だって、実際問題憂炎ったら、わたくしが入内してから一度もこの宮殿には足を運んでくださらないんですもの」

「えっ⁉ 嘘……そうなの⁉ 」


 言いながら、わたしはもう一度目を見開いた。


「ええ。お蔭でわたくしは張り合いのない毎日を送っていますわ。お食事も毒見後の冷たいものしか食べられませんし、姉さまの仰っていた『飼い殺し』って言葉がしっくりくる状況ですの」


 華凛はそう言って悲し気に目を伏せる。気づけばわたしの怒りは頂点に達していた。


(あの男、『凛風は毎日元気にしている』なんて言ってたくせに)


 その実、宮殿に顔すら見せていないとは――――とんだ嘘吐き野郎だ。その癖、妃じゃない『華凛』の方は猫っ可愛がりしているんだから意味が分からない。全く筋が通っていないと思う。


(そもそも、どうしてわたしが、あいつに振り回されなきゃならないんだ!)


 不要なら今すぐ『凛風』をお役御免にしてほしい。そうすれば全てが丸く収まるのに――――そう思うと、今すぐあの涼し気な顔をぶん殴ってやりたくなった。
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