妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
(どうする? 一体どうすれば良い?)
頭をフルに回転させたところで、答えは浮かんでこない。
やがて、憂炎はわたしの頬をそっと撫で、なにも言わぬまま部屋を後にした。普段は感じることのない残り香が、あいつの存在を消してくれない。
「嘘だろ……」
呆然と立ち尽くしたまま、わたしはついついそんなことを呟く。
「――――何がですの?」
すると、扉の向こう側からそんな声が聞こえてきた。わたしと全く同じ高さ、同じ声質。けれど、その声音はわたしのものよりも品良く、凛と響く。
「華凛」
そう声を掛けると、穏やかな微笑みを浮かべた少女――――華凛が優雅な足取りでこちらへと向かってきた。わたしと全く同じ顔を持つ、双子の妹。それが華凛だ。
「憂炎はもう帰ったのですか? 二人きりで話がしたいなんて、珍しいこと」
華凛はそう言って穏やかに微笑む。わたしとは異なる上品で女性らしい口調だ。
「まぁね。――――何の話をしていたか、聞きたい?」
「そうですわね……少しだけ興味があります。姉さまがそんな表情をしているのも珍しいことですから」
(そんな表情って、どんな表情よ)
心の中でツッコミをいれながら、わたしはため息を吐く。
華凛のいう『少し』っていうのは、『すごく』という意味だ。好奇心旺盛だが、令嬢としての自分を大事にしている妹は、よくこういう物の言い方をする。聞きたいことがあればストレートに尋ねるタイプのわたしとは正反対だ。
「――――憂炎が実はわたし達の従弟じゃなく帝の子で、皇太子になることが決まっていて、だからわたしに妃になれ……っていう訳の分からない話だった」
先程の話を要約しながら、わたしは唇を尖らせる。
従兄弟だと思っていた人間が実は皇子だって時点で非現実的だし、そいつが自分を妃として望むだなんて、おとぎ話でも聞かないレベルだ。本気であり得ない。
「まぁ、そうでしたの」
けれど華凛は疑問を呈すことなく、あっさりとわたしの話を呑み込んだ。
「……そうでしたの、ってあんた」
「それで? 姉さまは憂炎の話を断って、断り切れなくて、困り果てていらっしゃる……こんなところでしょうか?」
妹の物事を見通す力は凄まじい。コクリと頷きながら、わたしは眉間に皺を寄せた。
頭をフルに回転させたところで、答えは浮かんでこない。
やがて、憂炎はわたしの頬をそっと撫で、なにも言わぬまま部屋を後にした。普段は感じることのない残り香が、あいつの存在を消してくれない。
「嘘だろ……」
呆然と立ち尽くしたまま、わたしはついついそんなことを呟く。
「――――何がですの?」
すると、扉の向こう側からそんな声が聞こえてきた。わたしと全く同じ高さ、同じ声質。けれど、その声音はわたしのものよりも品良く、凛と響く。
「華凛」
そう声を掛けると、穏やかな微笑みを浮かべた少女――――華凛が優雅な足取りでこちらへと向かってきた。わたしと全く同じ顔を持つ、双子の妹。それが華凛だ。
「憂炎はもう帰ったのですか? 二人きりで話がしたいなんて、珍しいこと」
華凛はそう言って穏やかに微笑む。わたしとは異なる上品で女性らしい口調だ。
「まぁね。――――何の話をしていたか、聞きたい?」
「そうですわね……少しだけ興味があります。姉さまがそんな表情をしているのも珍しいことですから」
(そんな表情って、どんな表情よ)
心の中でツッコミをいれながら、わたしはため息を吐く。
華凛のいう『少し』っていうのは、『すごく』という意味だ。好奇心旺盛だが、令嬢としての自分を大事にしている妹は、よくこういう物の言い方をする。聞きたいことがあればストレートに尋ねるタイプのわたしとは正反対だ。
「――――憂炎が実はわたし達の従弟じゃなく帝の子で、皇太子になることが決まっていて、だからわたしに妃になれ……っていう訳の分からない話だった」
先程の話を要約しながら、わたしは唇を尖らせる。
従兄弟だと思っていた人間が実は皇子だって時点で非現実的だし、そいつが自分を妃として望むだなんて、おとぎ話でも聞かないレベルだ。本気であり得ない。
「まぁ、そうでしたの」
けれど華凛は疑問を呈すことなく、あっさりとわたしの話を呑み込んだ。
「……そうでしたの、ってあんた」
「それで? 姉さまは憂炎の話を断って、断り切れなくて、困り果てていらっしゃる……こんなところでしょうか?」
妹の物事を見通す力は凄まじい。コクリと頷きながら、わたしは眉間に皺を寄せた。