妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
 パカッと音を立て、頭上に眩い光が射し込む。
 恐る恐る顔を上げると、凶悪な笑みを浮かべた憂炎が、わたしのことを見下ろしていた。


「え? あ……憂炎? 来てたんだ」


 その場に屈んだままのわたしを、憂炎がヒョイと抱き上げる。口の端を引き攣らせ、眉間に皺をくっきりと刻んで。何でか知らないけど、こいつの逆鱗に触れてしまったらしい。


「あーーーーその、暇で暇で堪らなくてさ。侍女の皆とかくれんぼしてたんだよねぇ。だってさぁ、あまりにもすることが無いし――――――」

「そうか」


 弁明を聞いているのかいないのか。憂炎はそのままわたしを横抱きにすると、スタスタと歩き始めた。
 満面の笑み。だけど、目がちっとも笑っていない。


(怖っ! 何でそんなに怒ってるの?)


 得体が知れないものは恐ろしい。全身から血の気が引き、心臓がバクバク鳴り響く。


「だったら俺は、おまえが暇だと感じる余裕を無くさないといけないな、凛風」

「はぁ⁉ 何それ!?」

「……お前は少し、思い知った方が良い」

「だから、何を!?」


 後宮にいる以上、わたしがこの生活に満足することは無い。だけど、今それを伝えたところで、火に油を注ぐようなものだろう。


(っていうか、こいつ)


 聞き間違いじゃなければ、憂炎はさっき『夫に一途に愛されたら、幸せだと感じる筈だ』なんて言っていた。わざわざ、わたしに向けて。

 皇太子と妃は『夫婦』――――そう呼べなくもない。

 だけど、あいつが言ったのは一般論であって、わたし達に当てはまるものではないはずだ。きっと、そう。
 だけど。


(なんか、めちゃくちゃ身体が熱い)


 火照った頬を憂炎に見せないようにしながら、わたしはそっと目を伏せたのだった。
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