妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
13.転機と強請
後宮暮らしがふた月に及んだ頃、転機が訪れた。
普段よりも入念に施された化粧。宝玉のついた簪を何本も挿し、重たい装飾品を身に着けて、めちゃくちゃ豪華なドレスを身に纏う。
本当なら嫌で嫌で堪らない行為だけど、今日は違う。
何故なら、今日を最後にわたしは後宮を立ち去るから。
(ようやく……ようやく華凛に会えるっ!)
ウキウキと心弾ませながら、姿見に向かって満面の笑みを浮かべる。
今日は他国の使節を招いての宴会の日――――皇后の手紙に書かれていた宴だ。
後宮と内廷の間に位置する庭園に場が設けられ、帝を始め、皇后や妃、武官や文官達が集まり、華やかで賑やかな会が催される。東宮妃である『凛風』も、当然に参加が必要な行事だ。宮廷内の主要人物が一堂に会する場と言っても過言ではない。
そう言う場である以上、どんなに忙しかろうと、華凛は絶対会場に現れる。憂炎の補佐としてあちこちに動き回る筈だ。
(みんな浮かれてるし、わたしたちが入れ替わる隙は必ずある。っていうか、絶対に入れ替わって見せるんだから!)
一人、静かに気合を入れる。
そうじゃなくても今日は、例の嫉妬深いと噂の皇后や、帝の妃たちと対峙する日だ。普通にしてたら身がもたない。隙を見せたら最後。付け入れられるに違いないのだ。
(まぁ、どっちにしても明日からのわたしには関係ない話だけど)
もうすぐわたしは『華凛』になる。後宮での人間関係なんて一切関係なくなるし、憂炎に振り回されることも無くなる筈だ。そう思うと胸が高鳴る。
(ふふ、ふふふふ)
心の中で笑い声を上げたその時、背後に人の気配を感じた。
「…………っと、なんだ、憂炎か」
「俺で悪いか」
憂炎は不機嫌そうに唇を尖らせながら、わたしの方へと向かってくる。
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
答えつつ、辺りをぐるりと見回しながら、眉を顰めた。
(おかしいなぁ。憂炎とは違う気を感じたんだけど)
武術を修める人間は、人の発する気に敏感になる。僅かな動きや視線、殺気から、攻撃を予知するためだ。
だけど、憂炎が何も感じていない以上、わたしの気のせいなのだろう。どうやら緊張で気が昂っているらしい。
「よく似合ってるじゃないか、その衣装」
憂炎は上から下までわたしのことを眺めながら、そう言って穏やかに微笑んだ。
「……あぁ、馬子にも衣裳ぐらいにはなってるだろ?」
今日のドレスは、紅と薄紅色の薄布を幾重にも重ねた、上品だけど可愛らしいデザインだった。艶やかな染色に繊細に施された刺繍。普段のわたしなら、絶対に選ばないタイプの服だ。
だけど、一番のポイントは、豪奢なくせに、脱ぎ着が簡単なことだった。
(早く華凛に着せてやりたいなぁ)
華凛はこういった上品で高価な服が大好きだし、好んで身に着ける。きっと気に入ってくれることだろう。そう思うとワクワクしてくる。
「あっ、ねぇ、華凛は? 来てるんでしょ?」
憂炎がここに居るのだから、補佐役の華凛だって既に会場入りしているはずだ。
わたしが尋ねると、憂炎はまた、不機嫌そうな表情になった。
「――――――――あっちにいるよ。今、仕事中だけど」
仕事中を強調し、憂炎はふいとそっぽを向く。
普段よりも入念に施された化粧。宝玉のついた簪を何本も挿し、重たい装飾品を身に着けて、めちゃくちゃ豪華なドレスを身に纏う。
本当なら嫌で嫌で堪らない行為だけど、今日は違う。
何故なら、今日を最後にわたしは後宮を立ち去るから。
(ようやく……ようやく華凛に会えるっ!)
ウキウキと心弾ませながら、姿見に向かって満面の笑みを浮かべる。
今日は他国の使節を招いての宴会の日――――皇后の手紙に書かれていた宴だ。
後宮と内廷の間に位置する庭園に場が設けられ、帝を始め、皇后や妃、武官や文官達が集まり、華やかで賑やかな会が催される。東宮妃である『凛風』も、当然に参加が必要な行事だ。宮廷内の主要人物が一堂に会する場と言っても過言ではない。
そう言う場である以上、どんなに忙しかろうと、華凛は絶対会場に現れる。憂炎の補佐としてあちこちに動き回る筈だ。
(みんな浮かれてるし、わたしたちが入れ替わる隙は必ずある。っていうか、絶対に入れ替わって見せるんだから!)
一人、静かに気合を入れる。
そうじゃなくても今日は、例の嫉妬深いと噂の皇后や、帝の妃たちと対峙する日だ。普通にしてたら身がもたない。隙を見せたら最後。付け入れられるに違いないのだ。
(まぁ、どっちにしても明日からのわたしには関係ない話だけど)
もうすぐわたしは『華凛』になる。後宮での人間関係なんて一切関係なくなるし、憂炎に振り回されることも無くなる筈だ。そう思うと胸が高鳴る。
(ふふ、ふふふふ)
心の中で笑い声を上げたその時、背後に人の気配を感じた。
「…………っと、なんだ、憂炎か」
「俺で悪いか」
憂炎は不機嫌そうに唇を尖らせながら、わたしの方へと向かってくる。
「いや、そういうわけじゃないんだけど」
答えつつ、辺りをぐるりと見回しながら、眉を顰めた。
(おかしいなぁ。憂炎とは違う気を感じたんだけど)
武術を修める人間は、人の発する気に敏感になる。僅かな動きや視線、殺気から、攻撃を予知するためだ。
だけど、憂炎が何も感じていない以上、わたしの気のせいなのだろう。どうやら緊張で気が昂っているらしい。
「よく似合ってるじゃないか、その衣装」
憂炎は上から下までわたしのことを眺めながら、そう言って穏やかに微笑んだ。
「……あぁ、馬子にも衣裳ぐらいにはなってるだろ?」
今日のドレスは、紅と薄紅色の薄布を幾重にも重ねた、上品だけど可愛らしいデザインだった。艶やかな染色に繊細に施された刺繍。普段のわたしなら、絶対に選ばないタイプの服だ。
だけど、一番のポイントは、豪奢なくせに、脱ぎ着が簡単なことだった。
(早く華凛に着せてやりたいなぁ)
華凛はこういった上品で高価な服が大好きだし、好んで身に着ける。きっと気に入ってくれることだろう。そう思うとワクワクしてくる。
「あっ、ねぇ、華凛は? 来てるんでしょ?」
憂炎がここに居るのだから、補佐役の華凛だって既に会場入りしているはずだ。
わたしが尋ねると、憂炎はまた、不機嫌そうな表情になった。
「――――――――あっちにいるよ。今、仕事中だけど」
仕事中を強調し、憂炎はふいとそっぽを向く。