妹と人生を入れ替えました~皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです~
22.Return
「凛風! 凛風、しっかりしろ!」
憂炎の声が聞こえる。
矢の放たれた方角から聞こえる慌ただしい足音。あそこには護衛の武官が立っているはずなのに。
「憂炎、早く追いかけないと……おまえ、また狙われる――――」
「主!」
その時、白龍が血相を変えて戻って来た。
「護衛三人のうち二人が切り捨てられています。もう一人の行方は見えません」
「追え! 絶対に逃がすな!」
「御意」
白龍は一瞬で状況を理解したのだろう。要点だけ説明し、あっという間に居なくなった。
身体中がビリビリ痺れて言うことを利かない。血はどれぐらい流れているのだろう。確認したくても、叶わない。
「凛風! しっかりしろ」
憂炎は言いながらわたしの洋服をビリビリ破く。毒抜きが必要だと見抜いたのだろう。それにしたって、あまりにも乱暴だ。『華凛』はこれでも良いとこの令嬢なのに――――。
(……あれ?)
「凛風!」
「憂炎……おまえ――――――」
今のわたしは『華凛』のはずだ。だけど、憂炎はさっきからずっと、わたしのことを『凛風』って呼んでいる。
だって、そんな。まさか――――。
「気づいて、いたのか? わたしが『凛風』だって」
「当たり前だろう! 俺がどれだけおまえを見てきたと思ってる!」
涙がポロポロと零れ落ちる。
全然気が付かなかった。憂炎はずっと『凛風』を――――わたしを見てくれていたんだ。
憂炎が矢の刺さっている患部を晒す。空気に触れ、傷口がドクンドクンと大きく疼いた。
「凛風――――――これ、持っててくれたんだな」
「……え?」
憂炎はそう言って慎重に、わたしから矢を引き抜いた。その途端シャラッと小さな音が鳴って、憂炎が言わんとしたいことが分かる。
「ああ……どうしても、手放せなかったんだ」
憂炎から貰ったブレスレット。
後宮を去ったあの日以降も、毎日、肌身離さず持ち歩いていた。憂炎に見られないよう、胸元にしまい込んで。
見れば、憂炎が引き抜いた矢の周りを、ブレスレットが囲んでいた。石の間に入り込んだため、矢は勢いを殺されたらしい。傷は思ったよりも浅いようだった。
「うっ……」
胸元に憂炎の唇を感じる。血を思い切り吸い出されて、それから吐き出されて。何度かそれを繰り返されている内に、少しだけ身体が楽になった。
傷口は疼くし、熱いし、血が流れている感覚はあるけれど、多分、大丈夫。
わたしは憂炎の膝に頭を預け、ゆっくりと深呼吸をした。今にも泣き出しそうな憂炎の顔が見えて、小さく笑う。
憂炎の声が聞こえる。
矢の放たれた方角から聞こえる慌ただしい足音。あそこには護衛の武官が立っているはずなのに。
「憂炎、早く追いかけないと……おまえ、また狙われる――――」
「主!」
その時、白龍が血相を変えて戻って来た。
「護衛三人のうち二人が切り捨てられています。もう一人の行方は見えません」
「追え! 絶対に逃がすな!」
「御意」
白龍は一瞬で状況を理解したのだろう。要点だけ説明し、あっという間に居なくなった。
身体中がビリビリ痺れて言うことを利かない。血はどれぐらい流れているのだろう。確認したくても、叶わない。
「凛風! しっかりしろ」
憂炎は言いながらわたしの洋服をビリビリ破く。毒抜きが必要だと見抜いたのだろう。それにしたって、あまりにも乱暴だ。『華凛』はこれでも良いとこの令嬢なのに――――。
(……あれ?)
「凛風!」
「憂炎……おまえ――――――」
今のわたしは『華凛』のはずだ。だけど、憂炎はさっきからずっと、わたしのことを『凛風』って呼んでいる。
だって、そんな。まさか――――。
「気づいて、いたのか? わたしが『凛風』だって」
「当たり前だろう! 俺がどれだけおまえを見てきたと思ってる!」
涙がポロポロと零れ落ちる。
全然気が付かなかった。憂炎はずっと『凛風』を――――わたしを見てくれていたんだ。
憂炎が矢の刺さっている患部を晒す。空気に触れ、傷口がドクンドクンと大きく疼いた。
「凛風――――――これ、持っててくれたんだな」
「……え?」
憂炎はそう言って慎重に、わたしから矢を引き抜いた。その途端シャラッと小さな音が鳴って、憂炎が言わんとしたいことが分かる。
「ああ……どうしても、手放せなかったんだ」
憂炎から貰ったブレスレット。
後宮を去ったあの日以降も、毎日、肌身離さず持ち歩いていた。憂炎に見られないよう、胸元にしまい込んで。
見れば、憂炎が引き抜いた矢の周りを、ブレスレットが囲んでいた。石の間に入り込んだため、矢は勢いを殺されたらしい。傷は思ったよりも浅いようだった。
「うっ……」
胸元に憂炎の唇を感じる。血を思い切り吸い出されて、それから吐き出されて。何度かそれを繰り返されている内に、少しだけ身体が楽になった。
傷口は疼くし、熱いし、血が流れている感覚はあるけれど、多分、大丈夫。
わたしは憂炎の膝に頭を預け、ゆっくりと深呼吸をした。今にも泣き出しそうな憂炎の顔が見えて、小さく笑う。